「豊島村大道法師の塚」の版間の差分

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一、武州豊島郡沼田村へわたり越さんといふ、豊島の渡しの手前西側畑の中に大道法師の塚あり、世上の流布語に大道法師と称する是なり、土人の説に大道法師の草鞋につきし土砂落たりしが塚になりしといひ伝ふ、里俗はこれを稲荷塚とも称し、或は此のあたりを、小名に呼て代田ともいえり、是音のかよふを以て土人認め伝へしにや、又此側に小さき塚一つ中古までありしを、畑主破壇し圃に引ならしけるに、馬骨とも覚しき物夥しく出しが、その祟りにや畑主は年久しく煩ひければ、恐れて大道法師の塚へは鎌さへも入ずとなん、大道法師といふものいかなる人にや、怪しき巷談ながら見聞せしまゝを記す、周囲凡三間余りあらん、図の如し
 
一、武州豊島郡沼田村へわたり越さんといふ、豊島の渡しの手前西側畑の中に大道法師の塚あり、世上の流布語に大道法師と称する是なり、土人の説に大道法師の草鞋につきし土砂落たりしが塚になりしといひ伝ふ、里俗はこれを稲荷塚とも称し、或は此のあたりを、小名に呼て代田ともいえり、是音のかよふを以て土人認め伝へしにや、又此側に小さき塚一つ中古までありしを、畑主破壇し圃に引ならしけるに、馬骨とも覚しき物夥しく出しが、その祟りにや畑主は年久しく煩ひければ、恐れて大道法師の塚へは鎌さへも入ずとなん、大道法師といふものいかなる人にや、怪しき巷談ながら見聞せしまゝを記す、周囲凡三間余りあらん、図の如し
  
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2019年8月24日 (土) 13:02時点における最新版

19世紀の江戸近郊紀行文である『十方庵遊歴雑記』三編 巻之上 拾四 「豊島村大道法師の塚」の現代語訳および原文である。

現代語訳

[1]武蔵国豊島郡沼田村[2]へ川を渡って越すところ、豊島の渡し[3]の手前、西側の畑の中に大道法師だいどうほうしの塚がある。世の中の言い方で大道法師ダイダボッチというのがこれである。

地元住人の説として、大道法師の草鞋についた土砂が落ちたのが塚になったといい伝える。里俗にこれを稲荷塚とも称する。また、このあたりを小名で代田ともいう[4]その音が通じるため、地元の人々がそう認識して伝えたのであろうか。[5]

またこのそばに小さい塚が一つ、中古まで存在したが、畑の主が壊し、耕地にならしたところ、馬の骨のようなものが多数出た。その祟りであろうか、畑の主は長年病気になったので、恐れて大道法師の塚へは鎌さえも入れなかったという。

大道法師というのはどういう人か、あやしい世間のうわさ話でしかないが、見聞したままを記す。周囲はおよそ三間あまりであろう。この図のとおりである。

豊島村大道法師の塚.png

注釈

  1. 現代語訳はすべて木田沢ダイタによる。
  2. 豊島郡沼田村は現在の足立区江北の一部。荒川放水路の東側に当たる。
  3. 豊島の渡しは、北区豊島の、隅田川(もとの荒川)が大きく蛇行している通称「天狗の鼻」の先にあった。荒川放水路の開削により地形が変わってしまっているが、現在の北区と足立区の区界がもとの場所を伝えている。
  4. 豊島郡豊島に代田という小字があったという記載は他に見当たらない。代わりに臺坐(台坐=だいざ)という地名であったと伝えられている。本書ではどうも臺坐と代田が混乱しているように思われる。
  5. 他の文献では、「臺坐にあるから」という理由で臺坐塚と呼ばれる塚があるという記載もある。おそらくはダイダラボッチ伝説が由来ではなく、逆に臺坐という地名からダイダラボッチ伝説と結びつけられたのであろうと考える。

原文

一、武州豊島郡沼田村へわたり越さんといふ、豊島の渡しの手前西側畑の中に大道法師の塚あり、世上の流布語に大道法師と称する是なり、土人の説に大道法師の草鞋につきし土砂落たりしが塚になりしといひ伝ふ、里俗はこれを稲荷塚とも称し、或は此のあたりを、小名に呼て代田ともいえり、是音のかよふを以て土人認め伝へしにや、又此側に小さき塚一つ中古までありしを、畑主破壇し圃に引ならしけるに、馬骨とも覚しき物夥しく出しが、その祟りにや畑主は年久しく煩ひければ、恐れて大道法師の塚へは鎌さへも入ずとなん、大道法師といふものいかなる人にや、怪しき巷談ながら見聞せしまゝを記す、周囲凡三間余りあらん、図の如し

十方庵遊歴雑記

底本は江戸叢書刊行会『江戸叢書』所収のもの(国会図書館デジタルライブラリーにて公開)。